雅楽とは

雅楽風景

「雅楽」とは、元来は「俗楽」に対する言葉で、「雅正の楽舞」、つまり正統の音楽を意味します。この意味の雅楽は中国や朝鮮にもありましたが、その音楽そのものは日本の雅楽とは全く別のものです。

 日本の「雅楽」は、日本古来の歌と舞、古代のアジア大陸から伝来した器楽と舞が日本化したものおよびその影響を受けて新しくできた歌の総体で、ほぼ10世紀(平安時代中期)に今日の形に完成した日本の最も古い古典音楽でもあります。主として宮廷、貴族社会、有力社寺などで行われてきましたが、現在では宮内庁の楽部が伝承する雅楽がその基準をなします。

 京都においては、市比賣神社宮司故飛騨邦冨(ひだくにとみ)が雅楽を教え始め、昭和43年(1968年)には現在の宮司である飛騨富久(ひだとみひさ)が文化的遺産として雅楽を研究し、継承を始めまいした。


雅楽の文化価値について

 雅楽には、いずれも千数百年の伝統を有し、世界の最も古い音楽文化財として貴重な歴史的価値を持つものであり、宮内庁式部職楽部の楽師が演奏する雅楽は国の重要無形文化財に指定されております。雅楽は、西洋音楽とは異なる様式や楽器による高い芸術的価値を備えており、特にその和声と音組織における高度の芸術的構成によって、現代音楽の創造、進展に大きく寄与するとともに、雅楽それ自体が世界的芸術として発展する大きな可能性を有しております。

雅楽種類

 雅楽には、その起源系統によって「国風歌舞」「大陸系の雅楽」および「歌物」の三つの種類があります。

(1)国風歌舞(くにぶりのうたまい)

日本古来の原始歌謡とこれに伴うまいに基づき平安時代に完成した歌と舞です。神楽歌(かぐらうた)、東遊(あずまあそび)、大和歌(やまとうた)、久米舞(くめうた)などがあります。「上代歌舞」、「日本固有の歌舞」などとも呼ばれていますが、平安時代中期に今日の形に完成したものであり、また、大陸系の楽舞の影響を受けており、とくに伴奏に外来楽器の篳篥(ひちりき)を採り入れたことは注目すべき点です。

(2)大陸系の楽舞(唐楽と高麗楽)

5世紀頃から9世紀初めまでの約400年間にわたって朝鮮・中国などから伝来したアジア大陸諸国の音楽舞踊に基づき平安時代に完成した器楽です。大和時代から奈良時代までは種々の外来楽舞はそれぞれ渡来したときの形で演奏されていましたが、平安時代には次第に整理統合され、日本化されてゆきます。すなわち、まず、その伝来の系統により「左方(さほう)」「右方(うほう)」とに分けてその楽器編成が区別されました。中国・ベトナム・インド・ペルシャなどの音楽を起源とする唐楽(とうがく)による舞楽を左方、朝鮮・渤海(現中国の東北地方)の音楽を起源とする高麗楽(こまがく)による舞楽を右方と呼びます。また、演奏の形態により「管弦」「舞楽」とに分けてその演奏技法が区別されました。さらに、多種の外来楽器は取捨選択され、楽団編成は小規模な室内形式に変わりました。このような外来楽舞の一大変革と同時に日本人による作曲、編曲、作舞も盛んに行われ、ここに極めて繊細、優美な日本独自の雅楽が完成したのです。

(3)歌物(催馬楽と朗詠)

大陸系の音楽の影響を受けて平安時代に作られ、唐楽器等の伴奏で歌われるようになった歌です。民謡を歌詞とする催馬楽(さいばら)と漢詩を歌詞とする朗詠(ろうえい)とがあります。なお、和歌を歌唱する「歌披講」(官中の歌会始の儀などで行われています。)は朗詠と同時代に完成した音楽ですが、全く楽器の伴奏を用いることがなく、雅楽の中には入っておりません。

雅楽の演奏形態

 雅楽には、「管絃」「舞楽」および「歌謡」の三つの演奏形態があります。

(1)管絃

大陸系の雅楽器で奏する器楽合奏です。現在では、もっぱら唐楽を演奏し、ほとんど高麗楽は演奏されていません。いわゆる「三管両絃三鼓」の楽器編成で演奏します。「三管」とは笙(しょう)篳篥(ひちりき)および龍笛(りゅうてき)の三種の管楽器を、「両絃」とは、琵琶(びわ)および箏(そう)の二種の絃楽器を、「三鼓」とは鞨鼓(かつこ)太鼓(たいこ)および鉦鼓(しょうこ)の三種の打楽器を言います。 >> 楽器の詳細はこちら

 管絃では、管楽器が主な役目をします。すなわち、篳篥が主旋律を奏し、龍笛が同じ旋律をやや装飾的にか奏します。これに、笙が和音を付けます。打楽器はもちろんリズムを受け持ちますが、絃楽器も主としてリズム楽器として用います。奏法は、舞楽の場合には活発に力強く奏するものに対して、管絃の場合は緩やかに奏します。なお、歌謡のうち催馬楽と朗詠は、管絃の演目の中に入れて演奏することもあります。

(2)舞楽

 音楽とともに奏する舞で、歌に伴って舞う「国風舞(くにぶりまい)」と、唐楽の伴奏で舞う「左舞(さのまい)」および主として高麗楽の伴奏で舞う「右舞(うのまい)」とがあります。国風舞は、装束も簡素で、舞い振りも素朴ですが、高雅で壮重なものです。歌の伴奏に和楽器と外来楽器を併せて用います。左舞は、原則として赤色の系統の装束を用います。舞人は向かって左のほうから進み出て舞台に上ります。伴奏は、左舞と異なり、笙を通常は用いず、龍笛に代わって高麗笛を、鞨鼓に代わって三ノ鼓を用います。絃楽器は全く用いません。三ノ鼓と太鼓もリズムに合わせて舞います。 >> 舞楽のお面の詳細はこちら

(3)歌謡

雅楽器の伴奏で歌う声楽で、日本古来の原始歌謡に基づく「国風歌」と、大陸系の音楽の影響を受けて作られた「催馬楽」および「朗詠」とがあります。 国風歌は、伴奏に和琴、神楽笛などの和楽器と篳篥のほか、曲目により神楽笛のかわり龍笛、高麗笛などの外来の管楽器を併せて用い(笙は全く用いません)、笏拍子を打って、高雅に歌います。催馬楽は、伴奏に三管と両絃を用い、笏拍子を打って、俗調の和文を拍節的に歌います。 朗詠は、伴奏に三管だけを用い、閑雅な漢詩文を非拍節的に歌います。 歌謡は、いずれも句頭の独唱に続いて歌方の全員で斉唱しますが、管楽器は主奏者だけが演奏します。また、笙は、管絃や舞楽の場合に和音を奏するのとは違って、歌物の場合には旋律を奏します。